「終わることのない支配」★

天使ガブリエルは年老いた祭司ザカリアに洗礼者ヨハネとなる子が与えられることを告げた後、「ナザレというガリラヤの町」の「ダビデ家のヨセフという人のいいなずけである」マリアの所に遣わされた。目的は彼女が救い主イエスを宿す器となることを伝えるためであった。
 しかしマリアは、突然「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」と言われ、戸惑い、考え込んでしまう。それは当然のことであった。なぜなら、神の都と言われるエルサレムから遠く離れたガリラヤの小さな町ナザレの一人の女性にどうしてそのような大役を与えられるのか想像できなかったからである。また、そもそも救い主が「異邦人のガリラヤ」とまで言われている所に誕生するとは誰一人想像できなかった。イエス誕生後も「ナザレから何か良いものがでるだろうか。」「メシアはガリラヤから出るだろうか。」と人々に言われている。
 戸惑うマリアにガブリエルは続けて「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。」と、出産と神による命名を告げる。そしてイエスは「偉大な人」「いと高き方の子」と言われ、神は彼に「ダビデの王座」を与え、「永遠にヤコブの家(イスラエル)を治め、その支配は終わることがない。」と約束されることが明らかになる。
 マリアはイエスが誰かよりも、「男の人を知りません。」という事実を天使に説明するが、彼女の戸惑いへの対応は後回しにされ、引き続きイエスとは誰かが説明される。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。」イエスとはイスラエルが待望する救い主で「ダビデの王座」に着く方であると同時に、誰にとっても「神の子」となることが明らかにされる。そして、最後にようやくマリアの戸惑いに答えて「あなたの親類のエリサベトも年をとっているが身ごもっている。~神にできないことは何一つない。」と説明される。
 さあ、彼女はどうするか。婚約者のヨセフに、それから両親に相談してきます、ではなかった。「わたしは主のはしためです。お言葉とおり、この身になりますように。」とマリアは天使の言葉に一人で決断する。このことを可能にしたのは、彼女を支える周囲の手助けがあったからではないだろうか。小さなナザレの町で赤ちゃんが誕生すればみんなが応援にやってくる時代であったと思う。イエス出産後、マリアは「ヤコブ、ヨセ、ユダ、シモン」という名の男児や女の子の母となっている。マリアは神の子を宿し、育てる中で、いわば「肝っ玉母さん」になっていったのではないだろうか。